『希望のかなた』、並んで同じ方を向いてくれる人がここにいる。

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フィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキの最新作『希望のかなた』の試写を観てきました。2017年のベルリン映画祭で銀熊賞を受賞したカウリスマキ監督の「難民三部作」の2作目です。シリア難民の主人公カーリドがたどり着いた「いい人々のいい国」フィンランドで、難民申請を却下され、ネオナチからの理不尽な暴力にさらされる酷薄な現実に直面しながら、ぶっきらぼうにそっと寄り添って力を貸してくれる市井の人々に救われていく物語です。

© SPUTNIK OY, 2017

 

「私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者か、さもなければ社会に侵入しては仕事や妻や家や車をかすめ取る、ずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くことです。」と語るカウリスマキ監督。このユーモラスでメランコリックな作品が「今この世界のどこかで生きている人々の現実」を描いているということを忘れてはいけません。

この作品は観終えた主観「本当に良かった!ぜひ観てほしい」とツイートしてしまったくらい良くて、とにかくこの作品の中の(つまりはこの世界のどこかで生きている)人々への愛おしさでいっぱいになってしまいました。公開されたらまた観に行きますしDVDも欲しい。

© SPUTNIK OY, 2017

作中でばつぐんにユーモラスな、「流行ってるのか!よしこのレストランはスシ屋にしよう!」とやってみよう精神でトライしたら大失敗しちゃったの図。おかしくて、でも哀しくて。愛おしさがじわじわと湧いてきます。

そしてまた、アキ・カウリスマキ監督を語るときに、小津安二郎監督のことを考えずにはいられません。私はカウリスマキ監督の、小津監督に影響された、美しい構図がとても好きです。

これは作中で最も印象的だったショット。構図、そして色使い。カウリスマキ監督独特の、端正でどっしりと安定した印象とともに、心に深く訴えてくるさまざまな感情。同時に小津監督の空の青とヤカンの赤も思い起こさせ、思わず低くうめいてしまいました。

© SPUTNIK OY, 2017

小津作品つながりで。遠くを見る人物のシーンといえば、人物2人が並んで同じ方向を向いているシーンを思い浮かべますが、この物語の中頃までは、それぞれが一人ずつそれぞれの方向を向いています。

© SPUTNIK OY, 2017

それが、物語の終盤、彼らは同じ方を向きます。並んで。ものも言わず。静かに、しかし強い意志を共有して、見つめる方向へ進みます。なぜメインビジュアルにこのショットが使われているのか不思議でしたが、このシーンはこの作品の核となる、国籍も年齢も経験も異なる人々が一人の強い願いを叶えようという意志で深く繋がった瞬間を描いているからなんだな、と納得しました。仕事を成功させた彼らは歓喜にむせび泣いたりはせず、いつものようにとても静かに煙草をふかして願いの成就を祝います。この少しぶっきらぼうだけれど行動で語られる優しさに愛おしさがなみなみと湧いてきます。

© SPUTNIK OY, 2017

この表情の変化の少なさは、カウリスマキ監督作品の特徴のひとつでもあって、本作でも全体的にみんなすこしぶっきらぼうです。それこそ主人公とオーナーの最初の出会いは殴り合いで、お互いに鼻に詰め物をしながらテーブルを囲みます。アングルが変わり「うちで働くか?」(一秒後)「はい!」と答えるこのやりとり、すごく良かったです。説明しすぎない、けれど独りよがりでないのがとても好きです。

© SPUTNIK OY, 2017

カウリスマキ監督は、昔のインタビューで、亡き小津安二郎監督へ向けて「あなたのレベルに到達できないことを自身に納得させるまで、墓に入るわけにはいかない。……墓には『生まれてはみたけれど』と刻みます」と静かに語りました。

たまらない。なんて深い愛とリスぺクト。めまいがするほどストイックに制作された本作、ぜひご覧ください。北欧映画は苦い後味のものが多いですが、本作に関してはご安心めされよ。爽やかで、むしろ勇気づけられます。

 

予告トレーラー

『希望のかなた』
(原題:TOIVON TUOLLA PUOLEN/英語題:THE OTHER SIDE OF HOPE)
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン
2017年/フィンランド/98分/フィンランド語・英語・アラビア語/DCP・35㎜/カラー
配給:ユーロスペース
© SPUTNIK OY, 2017

作品公式サイト http://kibou-film.com/

12月2日(土)渋谷・ユーロスペース他にて 全国順次公開

 

店長カトー/ Mayuko Kato